「もう我慢できない!」状態のまま、ケロッグ・コンボ並の速さで予約してきました。
ついでに『緋色の欠片』DS版も。こっちは発売が来週なんですね。
以下、フライング・妄想文。
小出しにされている性格とか設定とかを頼りに書いたので、実際とは大きく違うと思います。
というか絶対に違います。でも書いちゃった。
それでも大丈夫という方のみ暇つぶしにどうぞ。
千尋←布都彦
水鏡に映る姿をじっと見つめながら、千尋は髪の毛をとかしている。
ふだんはきっちりと結い上げているため、下ろしている姿は少し別の人のようで近寄りがたく感じた。
周りには誰もいないが、木立のどこからでも狙えそうなので、姫の安全を守るためと布津彦は言い聞かせながら歩み寄る。
声をかけるまえに千尋がふりむいた。その拍子にまとめていた髪がはらりと首にこぼれ落ちる。
あまりにも無防備に見えて、布都彦は慌てて膝をついて頭を下げた。
「申し訳ありませぬ。身支度のお邪魔をするつもりはないのですが、姫がお一人でおられるのが気になって……」
「ありがとう、心配してくれたんだね。もうちょっとで終わるから待っててくれる?」
「はい」
ほんの少し離れてそばに控える。
あからさまに見るなどといった不敬はしないが、それでもちらりとうかがってしまう。
すると水面を通して千尋が自分を見ていることに気付いた。
「姫?」
「布都彦くんのその髪型、みずらって言うんだっけ? 可愛いよね」
耳のあたりで軽く髪の輪をつくるのを見て、布都彦は慌てた。
「これは男子の髪型ですので、姫がなさってはいけません」
「えー、男の子限定なの? 可愛いのに」
「いつもの姫の髪のほうが、ずっとお似合いだと思います」
すべり出た自分の言葉に布都彦はどきりとするが、千尋はうれしそうに笑っただけだった。
深い意味にとられていないと安心して、すぐにそんな己を叱り付ける。
自分は姫に従う兵に過ぎないのだ。いくら千尋が気安い性格をしていても、それに甘えるようなことがあってはならない。
「ここをピンでとめて……あ、はじいちゃった」
音もなく水面に落ちた髪留めを、布都彦はすぐに手のひらを差し入れて受け止めた。
冷たい水のなかでピンは静かにきらめいている。
「ごめんね。手、ぬれちゃったね」
「お気になさらないでださい」
領布で水をぬぐう。そしてそのまま差し出した。神子の身に触れるものは、清いままで。
「マントまでぬらしちゃって、もう本当に……きゃあ!?」
もう一度謝りかけた千尋を布都彦は地面に押し倒した。その頭上を矢がうなりをあげて通り過ぎ、水面に突き刺さった。
ぐ、と槍を握りすぐさま立ち上がる。同じように起き上がろうとした千尋を制する。
「姫、決して動いてはなりません」
「は、はい!」
放たれた矢を布都彦は叩き落していく。絶対に千尋に当ててはならない。
だが周囲から注がれる矢に、布都彦は青ざめる。
いつのまにか囲まれてしまっていた。まったく気付かなかった自分を恥じる。
だが今は命にかえても姫を守り通さなければ。
「布都彦くん、危ない!」
背中を強く突き飛ばされ、そのままぐらついて転んだ。
矢がかすめるようにして飛んでいく。だが自分の危険よりも千尋のことしか考えられなかった。
「姫、お怪我は……!!」
返ってきたのは野太い男の声だった。
「無事さ。龍神の神子は生きたまま連れて来いと言われてるんでな」
「やだ……っ!」
千尋を地面に押さえつけたまま、その首筋に剣を当てていた。
「姫!」
「動くな。無傷でとは命令されていない。さあ、武器を捨てろ」
足で千尋の背中を踏みつけ、男は唇をいやらしく歪めた。その本気を読み取り、布都彦は歯をくいしばって槍を手放した。
すると男の仲間が近づいてくる。見せ付けるようにひらめかす拳に、千尋が悲鳴をあげた。
「ダメ! 逃げて!」
「黙れ」
髪をわしづかみし、さらに刃を食い込ませようとする。もう少し力が入れば、赤い血が浮かび上がる。
「姫、大人しくしていてください。私なら大丈夫です」
「大丈夫じゃないよ! お願いだから、逃げて!」
「目を閉じていてください」
なぶり殺しにされるのはかまわない。だが、その光景をこの優しい女性に焼き付けたくない。
安心させようと思ってほほえんでみせたが、千尋の目がさらに大きく見開かれただけだった。
そして唇を引き結ぶと、男の下で激しくもがきだした。
「くそっ! 動くな!」
「姫! 動いてはなりません!」
だがその言葉をきかず、千尋はその首を大きく振った。
刃が物を切る音がした。それにひるんだ男の下から千尋は這い出てきた。
「布都彦くん!」
渡された槍の重みに我に返る。だがそれを振るっているあいだの布都彦の意識は混濁していた。
駆けつけた兵と常世の兵が入り乱れたが、最終的にはなんとか勝利を収めることができた。
だがだれもが喜ぶことができなかった。
空は薄墨が流されたようなぼやけた色をしている。
その下に立つ少女はとても小さく、はかなげに見えた。
「姫、ご無事でしたか」
「うん、布都彦くんが守ってくれたから」
「私はなにも……」
風に揺れているふぞろいな髪の毛に、布都彦はどうしていいかわからなくなる。
千尋の髪留めはまだ手のなかにあったが、渡せるはずもない。
「ごめんなさい」
「なにを、謝られるのです……姫はなにもしていない」
「私がふらふら歩いてなかったら、人がこんなに傷つくこともなかった」
ああ、と布都彦は嘆息した。
(怪我はしていないが、姫はだれよりも……)
遠くを見やる千尋はとても悲しげで、今度こそ布都彦は言葉を失う。
この胸の痛みは、ただ忠誠ゆえのものだと言えるのか────
